臨床歯科医にとって、一日の診療の中に占める根管治療の割合は、決して少なくない。私のある1週間(6/30〜7/5)では、図1のように19.3%の患者(35/181名)に、根管治療を行っていた。図1:円グラフ 1枚
また、全顎的な治療を行った患者に、治療期間中、各月に於いて主たる治療は何を行ったかをグラフで示したのが、図2であるが、初期段階に根管治療が多い。図2:棒グラフ1+(組口腔内写真) 1枚

これらの事をふまえて、一般臨床歯科に於ける根管治療の特徴を考えると、ー臍覆悗梁弍となる場合があるので、「痛みを止める」、「痛みを出さない」ことで患者の信頼を得ることができる。⊆N鼎僚藉に位置するので、手際の良さ、信頼感を得ることで治療の主導権を得ることができる。そして、必要であれば1本の歯の治療から全顎的な治療へ、患者を誘導できる。4霑壇な治療であるので、補綴処置の後は再治療が行いにくい、言い換えれば「失敗が許容されにくい治療」の3点が挙げられる。
このような状況の中で、我々臨床医は、日々患者と相対し根管治療を行い説明を繰り返している。その際に特に重要になるのは、診断とその後の予後の説明である。
我々歯科医は、大学で教育された理論を持って臨床の世界へ飛び出し、経験を重ねてゆくうちに自分の治療の結果をつきつけられ、悩み、術式を見直し、改良し、より良い結果を出せる様に努力してきた。そしてその治療の結果を術前に患者に話し、その通りにならない場合は、患者の信頼を失う事となる。歯科医師としての評価を下げることにもなる。いきおい、術前の予後の予想に沿った治療をすることもある。経験、ただそれだけで預言者のごとく、一本の歯牙の運命を決定付けてしまっているのが実情である。

根管治療には、大別して抜髄と感染根管治療があるが、今回、以下に述べる経緯により感染根管治療のうち、根尖病変のある歯の治療の10年以上の予後を調査したので、報告したい。私の開業以来の根尖病変への挑戦の結果である。
根管治療については、結果の判定はX線写真である程度客観的に行うことができるので、この調査はEBMとしての価値も高いと思われる。

過去の治療の結果報告をする前に、現在の根尖病変へ対する姿勢を述べたい。図3−1は、初診時のX線写真である。患者の主訴は、右下の咬合痛と、同じく、欠損部へのインプラント治療が希望である。X線写真で判るように右下5番は歯根破折を起こしており、抜歯となりそうである。問題は、右下4番の根尖病変と奥の欠損部へのインプラントの植立の希望である。ここで右下4番の治療の選択肢としては、通常の根管治療を行うやり方と、根尖病変が大きいので、抜歯をしてここにもインプラントを行うという2つがあると思われる。この症例では、私は右下4番周囲に深い歯周ポケットが無いのを確認した上で、迷わず、右下4番の保存へ踏みきった。
図3−2は、右下5番抜歯と同時に4番の根管治療を行った次回のX線写真である。4番はやはり失活しており、5番の抜歯窩が4番の根尖病変の排膿路となって欲しくないので、同時に根管治療を開始した。歯牙の動揺が激しいため、撮ったX線写真であるが、一瞬、抜歯も脳裏をよぎった。
図3−3は、滲出液、腐敗臭がなくなったので、初診より11日後に根充した時のX線写真である。
図3−4は、1年8ヶ月後の状態で、根尖病変の大幅な縮小が認められる。
この症例のように、私は根尖病変がどんなに大きくても、適切な根管治療により、歯牙の保存は可能であると考えている。言い換えれば、この症例は自分自身の行なう根尖病変へ対する治療の自信の表れでもある。
図3−1〜4:X線写真 4枚

しかしこのような漠然とした自信は、これまでの私が行なってきた根管治療に対する結果の積み重ねから来ているだけで、根拠が無かった。
今回、第32回北九州歯学研究会発表会で発表の機会を与えていただいたのを機に、はたして私の行なってきた根尖病変への治療で、予後10年以上でどの位の治療実績を残せているのかを調べてみることにした。
この予後10年には、以下の二つのこだわりがあった。一つは、つねづね自費治療の患者に、10年間は責任を持つという事を言っているので、エンドも10年後の予後を知りたかったこと。二つ目は、私事ではあるが、平成1年に開業し今年20年目の節目の年でもあり、予後10年以上のケースは、現在も当院を頼りにしてくれたり、リコールに応じてくださったり、いわば顧客の治療成績となると思ったからである。

調べるといっても、ただ闇雲にカルテを見なおしても徒労におわるので、過去に行なわれた同様の調査の文献を参考にする事にした。
文献は1990年にJ.of Endoduntics に掲載されたSjögren の「Factors Affecting the Long-term Results of Endoduntic Treatment 」を採用した。根尖病変の予後を検討した論文は、いくつかあったが、予後をとった期間が8〜10年後と、今回の私の調査に合致したので、これを選んだ。

この論文は、2007年、私が九州歯科大学同窓会の基礎臨床セミナーで発表した時に、同じくエンドで発表された九州歯科大学口腔機能科学専攻口腔治療学講座齲触歯髄疾患制御学分野の永吉雅人先生が引用されていたり、飯塚哲夫先生も、その著書「歯内療法の臨床」」の中で引用されていたり、有名な論文のようである。
論文の概要は、図4に示すとおり、スウェーデンのウーメオ大学の歯学部学生が、1977年から1979年に行なった歯内治療を治療後8〜10年後にリコールして調査した結果である。対象根管は抜髄267本、歯髄壊死306本、既に治療された歯267本、診断がつかなかった歯が9本であった。これらの根管に行なわれた根管治療をX線写真にて判定した(図5)結果であるが、この時、途中で抜歯となった歯は除外されている。この論文は、歯髄炎、歯髄壊死、既に根管治療の行われた歯の3つをそれぞれ根尖病変のある歯、無い歯に分け、診断不明を加えた、7つの分類と、上顎を中切歯、側切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯、下顎を切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯の9部位に分けた、63項目の歯の治療成績を追ったものである(後に掲げる図15を参照されたい)。私は、感染根管治療を行った根尖病変のある歯の予後を調べたので、この論文中の根尖病変のある、歯髄壊死と既に根管治療の行われた歯の結果を参考にした。
図4、5,6,7:文字スライド  計4枚

ウーメオ大学の根管治療術式は図6に示す通りで、現在、日本の歯科大学で行なわれている標準的な方法だと思われる。

Sjögren の参考論文にならい、私も10年以上の経過がとれるケースを探すために、開業した平成1年6月2日よりH10年1月3日までに来院した3669名の患者カルテ、X線写真を見直した。
その中より、術前のX線写真にて、明らかに根尖に透過像がある歯で、10年以上の予後が追える歯を選んだ結果、120名の患者さんの252本分の資料を準備することができた。これらを次に紹介する治癒の判定基準に照らしあわせ、得られたデータと共に、表計算ソフト、エクセルに入力した。

資料となったH1年からH10年までの間、私が行なっていた根管治療術式を図7にて示す。SEC1-0はファイルを0.4佗で上下に振動させる機械的根管拡大タービンである。電気的根管長測定器APITや超音波洗浄器オサダのエナックなどを使い、ほとんどが次回根充を行っていた時期である。
このH10年には、日本歯科評論に「効率的な歯内療法を目指して」という論文を投稿し、根管治療の際には効率に視点を置いて、治療を行なっていた時期でもあった。

さて、今回の治療結果の判定基準について述べるが、判定基準の基にしたのが、1992年、当歯学研究会会長の下川先生が発表された「正常な歯周組織のX線像」の4項目の3番目「鮮明な歯根膜線と歯槽硬線ができる限り薄く均等な幅で確認できること」である。(図8)(なお下川先生は2005年にさらに上顎洞についての所見もつけ加えられ「健康な歯周組織のX線像」として発表されている。)
つまり、この事が確認できて、初めて、治療後の根尖病変が治癒した事とした。これはさきほどのSjögrenの論文の中にあるStrindberg’sの基準(a)と同等の内容となる。
病変が縮小していれば、治癒傾向にあると、治癒の範疇に含めたくなるが、処置後10年近く経過しているのに、歯根膜腔の肥厚があれば、何らかの異常があると考えたほうが、妥当であろうと考える。
昨今、歯科用CTが発売され、臨床の中に取り入れられ始めている。エンド領域での臨床応用例を見ると、根尖病変の治癒の判定に、歯科用CTは大きな力を発揮しそうであるが、私は、現状ではコストや普及具合から、一般歯科医はまだまだデンタルX線写真に頼らざるを得ないと考える。なお、判定結果はエクセルに入力しやすいように数値化している。
図8:2枚の組X線写真+文字 1枚

図9は鮮明な歯根膜線と歯槽硬線ができる限り薄く均等な幅で確認でき「判定1」の良好なケースである。
図9:X線写真 2枚

図10は根尖病変は縮小しているが、鮮明な歯根膜線と歯槽硬線ができる限り薄く均等な幅で確認できない「判定2」の病変の縮小のケースである。
図10:X線写真 2枚

図11は根尖病変が依然として存在するもの、または増悪しているもの「判定3」失敗とみなすケースである。
図11:X線写真 2枚

図12は「判定4」根管治癒は成功しているが、他の原因、たとえば、2次カリエス、歯根破折などで抜歯となったケースである。
図12:X線写真 2枚

図13は「判定5」歯内治療の失敗による抜歯、又は、歯内療法が起因となり、歯根破折等を引き起こし、抜歯となったケースである。
図13:X線写真 2枚

以上、1〜5の5段階に予後を分類し、数値化した。

図14は、エクセルに入力する項目と、入力したデータの一部であるが、患者ID、部位はFDI Tooth Number Systemにより、右上4は14、左下4は34と表している。他に、初診と予後は、それぞれX線写真の撮影日で、予後から初診をさし引いたものが期間とした。次に参考文献では歯髄壊死と既に治療がなされていた歯を分けていたので、既に治療されていた歯の場合は0、歯髄壊死は1と入力項目を設けている。
このように各項目を数値化する事によりエクセルのデータ並び換え機能により、さまざまな条件の歯の数を把握しやすくした。
図14:エクセルの表 1枚

図15は、Sjögren の文献の中での治療の成功率を表した表であるが、根尖病変のある歯髄壊死と既治療歯はそれぞれ86%と62%の成績であると示されている。
図15:論文接写の組スライド 1枚

図16は、私とSjögren の根尖病変治療の成功率を、参考文献を基にまとめたものである。そもそも、根尖病変の治癒の割合を知りたかったので、歯髄壊死と既治療歯を合算して、取り扱っている。私の準備したケースは、252歯であったが、抜歯された26歯は除外したので、サンプル数は226歯となった。また、Sjögren の文献と私の今回の調査のサンプル数の間では、大きな違いがでた。歯髄壊死においては、参考文献では、204本に対し、私は22本、既に治療された歯の方は、94対204と私の方が大きく上まわっている。何故このような差が出たのかは解らないが、北欧と日本の歯科医療の質の違いであろうか。
成功率については、ほぼ似通った数値が出たが、既治療歯の成績では、私のほうが15%ほど上回った。
図16:15行×7列の表 1枚
図17,18,19は、この表をグラフ化したものである。

私は、各歯牙別に集計しているので、今回の調査の結果を述べたい。

図20は、エクセルで処理を行い、各部位別に既に治療してあった歯と歯髄壊死の数をグラフ化した物である。今回の場合、根尖病変があった歯は、上顎においては1、2番、下顎では6番に多くみられた。
図20:2個の棒グラフの組スライド 1枚

図21は治療成績を表すグラフになるが、矢印で示した上顎6番の治療成績は参考にしたSjögren の文献と著しく結果が異なるため、のちほど11ケースすべて、お見せしてこの調査の信頼度を判断していただきたいと思う。
図21:2個の棒グラフの組スライド 1枚

図22は治療結果を%表示にしてわかりやすくしたものである。根尖病変が直り難い歯としては、意外にも、上顎1番、3番、4番、下顎は1番と4番と6番であった。
図22:2個の棒グラフの組スライド 1枚

この結果は、日々臨床を行ううちになんとなく感じていた(臨床実感?)ので、それに対する原因解析と対応はそれなりにとっていた。
まず、上顎小臼歯、下顎前歯、下顎大臼歯は、予後の悪い原因は根管形態に関連すると思われる。図23は、下顎大臼歯と、上顎小臼歯の歯根の横断面であるが、頬側と舌側口蓋側が中隔を介して連結している。また、中隔部分が癒合し、2根管の場合でも、根管の形態は扁平であることが多い。この部分の抗原の取り残しが予後不良の原因ではなかろうかと考え、私は#20のHファイルなど細いファイルを使い意識をしてファイル操作をしている。
また、上顎前歯、犬歯、下顎小臼歯という、単根管で比較的簡単で成績の良さそうな歯で、成績が悪いのは安易な根管拡大による根充剤の取り残しがあるのではないかと考えた。そこで現在の術式は、術前に既に根充材が充填されている歯は、根充前に除去の確認のデンタルX線写真を撮るようにしている。(図24)
図23:2枚の組スライド 1枚
図24:X線写真 4枚

図21で先ほど述べたように、Sjögren の文献では、既に治療された歯の上顎大臼歯においては13本中2本しか成功しておらず、私の19本中16本成功という結果と大きくかけはなれている。そこで、これより症例の供覧も兼ねて上顎6番の11症例を失敗例2例を含めて全て見ていただきたいと思う。ちなみに、11症例中、既治療歯10症例、歯髄壊死1症例である。

以下の赤字部分は、図説で
図25は、平成2年初診の14年経過症例である。6番は治癒していると思う。
図25:X線写真 2枚

図26は歯髄壊死の症例の12年後である。これも明瞭な歯根膜線が観察できる。
図26:X線写真 2枚

図27は10年10ヶ月後の成功例である。
図27:X線写真 2枚

図28は10年経過症例である。小臼歯はぺリオで予後不良であるが、6番は判定1である。
図28:X線写真 2枚

図29は18年後でも病変が存在し、判定3の失敗症例である。
図29:X線写真 2枚

図30は頬骨と重なり、初診の病変が見づらいが、予後良好である。14年経過している。
図30:X線写真 2枚

図31は12年後に6番の透過像が消えている症例である。
図31:X線写真 2枚

図32は同じく12年後に口蓋根の透過像は消えているが、MB根に透過像が見られ判定3の失敗例である。
図32:X線写真 2枚

図33は11年後の予後良好例である。
図33:X線写真 2枚

図34も、10年経過の良好例である。MB根も良好にみえる。
図34:X線写真 2枚

図35は最後の10年経過症例で、良好である。右上65間の骨欠損が無ければ、もっと良かったのであるが、歯周病の進行が悔やまれる。
図35:X線写真 2枚

以上、上顎6番の11症例中、良好9例、失敗2例であった。

参考文献では、抜歯をした歯が除外されていたので、ここまではそのように処理してきたが、私はやはり含めるべきだと思う。そこで、抜歯を含んだグラフを図36として示す。

さて、以上の結果をふまえての考察であるが、


ー分としては、もっと治せているつもりであったが、実は70%しか治せていなかった。⊆N纏の1割は、抜歯となっていた
これは、私にとって非常にショックであった。図36のグラフを見ると、エンドの失敗に由来しない抜歯(グラフ中 抜歯1)の9%を減らすことも大切だと思われる。エンド以外の、ペリオ、メタルコアーを現状より改善してゆくことでそれは、達成できるのではなかろうか。はっきりとしたデータを取ったのは、今回が初めてであるが、このことは臨床の中ではうすうす感じていた。振り返れば、歯根破折を減らすために、根管治療中に余分に歯質を削らないという事を、2004年の第22回顎咬合学会のテーブルクリニックでも発表していた。今回のデータは約20年前から10年間の治療のものである。今はもっと治せているはずと思う反面、さらにもっともっと治したいと痛切に思っている。
しかし、これから先10年の治療結果を出せるのは、20年後である。私も、今年50歳になり、これから先の10年の結果は、知ることが無いもかもしれない。であれば、今後は一瞬一瞬を大切に、効率化よりも、丁寧さ、完璧さを求めたいと思っている。
医院のスタッフと総力を挙げ、今後とも厳しく楽しく力を合わせて診療してゆきたいと思う。
図31:円グラフ 1枚